東日本大震災を経験して 認定NPO法人 東京盲ろう者友の会 災害対策委員会 2014年3月 目次 はじめに 第1章 聞き取り調査 1 調査した項目 2 調査した盲ろう者の基本情報 3 調査結果 4 まとめ 第2章 日頃からできる地震対策 1 自宅での備え  (1)家の中の地震対策  (2)防災用品の準備 2 避難のポイントを知る  (1)「一時(いっとき)集合場所」と「避難場所」の違い  (2)事前の確認など  (3)避難する時のポイント 3 周囲の人に助けを求める  (1)盲ろう者向けSOSカード  (2)災害時要援護者登録制度 第3章 盲ろう者の声と今後の課題 1 盲ろう者の声 2 今後の課題 おわりに はじめに  2011年3月11日、東日本大震災が起き、多くの人が被災しました。 東京では最大震度5強を記録し、東京盲ろう者友の会の仲間たちも大きな被害はなかったものの、震災時、盲ろう者はどのように身を守れば良いのか、誰もが考えるようになりました。 このため、東京盲ろう者友の会では「災害対策委員会」を設け、地震対策に取り組むこととなりました。 まずは、東日本大震災で東京の盲ろう者は何に困難を感じたのか、聞き取り調査をすることになり、6名の盲ろう者に話を聞きました。 6名の方の聞き取り調査でわかったことは、盲ろう者は移動・コミュニケーション・情報収集に困難がありますが、これらは被災した時にさらに困難さが増すということです。 また、派遣事業を担う職員も、通訳・介助者も被災してしまいますので、日頃の支援体制は役に立たなくなってしまいます。 6名の方の話を聞けば聞くほど、震災時の盲ろう者の支援は東京盲ろう者友の会という小さな団体だけでは実現できないことを痛切に感じるようになりました。 震災時の困難を解決するには、行政の制度の充実、近隣住民の理解、盲ろう当事者や通訳・介助者の意識の向上が不可欠で、どれが欠けても健常者と同等の解決策は得られません。 しかし、行政への要望や一般の人への啓発活動は、長期的かつ全国的な取り組みになることから、まずは、私たち仲間の意識向上を図ることを目標の第一歩に掲げ1年半をかけて災害対策について取り組みました。 この冊子は、その1年半の活動で得た知識や情報をまとめたものです。 数ある地震対策のほんの一部に過ぎませんが、盲ろう者や通訳・介助者の皆さんの地震対策ならびに意識向上の一助になることを願っています。 第1章 聞き取り調査 この聞き取り調査は、東日本大震災で首都圏にお住まいの盲ろう者が具体的にどのような困難を経験したかを知り、災害対策委員会の活動の基盤とすることを目的として行いました。 災害対策委員が6名の盲ろう者に個別に会い、友の会やご自宅の近くで一人につき約1時間かけて調査を行いました。 1 調査した項目 聞き取り調査を実施した項目は下記の8項目です。 (1)ご家族は? (2)東日本大震災が起きた時のあなたの行動を教えて下さい。 (3)不安だったこと何ですか? (4)震災に関する情報はどうやって得ましたか? (5)自宅で被災した場合、近所に支援をお願いできる人はいますか? (6)通訳・介助中に大地震が起きた時、通訳・介助者に望むことは何ですか? (7)震災に備えて、友の会や支援センターに望むことは何ですか? (8)震災に備えて、国や区市町村に望むことは何ですか? 2 調査した盲ろう者の基本情報 6名の盲ろう者の基本情報を下記に示しました。 Aさん  性別:男性 障害の程度:全盲ろう  コミュニケーション手段:発信/手話 受信/触手話、手書き文字 Bさん  性別:男性 障害の程度:弱視ろう  コミュニケーション手段:発信/音声 受信/指点字、手書き文字 Cさん  性別:男性 障害の程度:弱視難聴  コミュニケーション手段:発信/音声 受信/音声、パソコン通訳、指文字、指点字 Dさん  性別:女性 障害の程度:全盲ろう  コミュニケーション手段:発信/手話 受信/触手話、手書き文字 Eさん  性別:男性 障害の程度:全盲ろう  コミュニケーション手段:発信/音声 受信/触手話、手書き文字、指点字 Fさん  性別:女性 障害の程度:弱視ろう、運動障害(電動車いす使用)  コミュニケーション手段:発信/手話、音声 受信/触手話、指点字、手書き文字 3 調査結果 (1)ご家族は? Aさん 妻と二人暮らし Bさん 両親と三人暮らし Cさん 一人暮らし Dさん 夫と息子と三人暮らし Eさん 一人暮らし Fさん 一人暮らし (2)東日本大震災が起きた時のあなたの行動を教えて下さい。 Aさん  友の会の事務所にいた。 通訳・介助者から地震の情報を伝えてもらった。 地震震源地が実家に近かったので心配になり夕方5時ごろに通訳・介助者と一緒に事務所を歩いて出た。 実家に携帯で連絡をしたが通じなかった。 8時半ごろ家族からメールを受信できた。 電車が動くと聞いて9時頃途中駅で電車に乗り最寄り駅まで帰った。 4時間ぐらいかかり、10時頃自宅についた。 Bさん  通訳・介助者と外出していた。 帰る途中、電車の中で地震にあった。 車内アナウンスの「電車は動く見込みがない」という情報を通訳・介助者が伝えてくれた。 乗客は、線路へ降り踏切から道路へ出て、近くの小学校へ避難するよう、車掌より指示された。 避難先の小学校の体育館に着いたのは夕方ごろだった。 避難所内は床で横になっている人もいて、トイレなど移動するのが大変だった。 通訳・介助者が携帯電話で私の自宅に連絡をとり、父親が車で迎えに来ることになったが、父が避難所に着いたのは深夜1時頃だった。 通訳・介助者も迎えに来てもらっていた。 地震が起きてから父が迎えに来るまで、通訳・介助者はずっとついていてくれた。 Cさん  職場で同僚と仕事をしていた。 地震はすぐに収まるだろうと立っていたが、同僚が私を机の下に引っ張ってくれた。 無理やり机の下に押し込まれたのでビックリした。 職場は倒壊の恐れがあったため同僚と一緒に歩いて帰った。 大きな駅に着き、同僚と一緒に食堂で夕食をとったり、床に座ったりして電車が動くのを夜10時半まで待った。 ようやく携帯電話が通じるようになり、一部の電車が動き始めたが、自宅に帰るのは諦めて、近くの同僚の家に泊まることになった。 Dさん  近所のスーパーでヘルパーと買い物をしていた。 カートを押している時に、突然揺れ始めた。 カートとヘルパーにしがみついて揺れが収まるのを待った。 店員の指示で広い場所に避難した。 店内の物が散乱して大変だったようだ。 その後、ヘルパーに自宅まで送ってもらった。 ヘルパーが帰ってからは一人で家にいた。 夫が帰宅したのは約4時間後であった。 それまでパソコンと点字ディスプレイを使ってインターネットのニュースから地震の情報を集めた。 Eさん  自宅に一人でいた。 とにかく情報が入らなかった。 周りの状況がわからないので、地震発生から1時間後に自力で地域の手話通訳派遣事務所へ向かうことにした。 道に物が散乱しているかもしれないので、ずいぶん歩くのに時間がかかってしまった。 途中、通りすがりの男性に肩を叩かれ、話はあまり通じなかったけれど、地下鉄の駅まで連れて行ってもらった。 しかし駅はシャッターが下りていたので、その男性に派遣事務所まで連れて行ってもらった。 派遣事務所には手話通訳者が二人おり、地震の情報を聞き、手話通訳者に家まで送ってもらった。 Fさん  通院のため会社を午前中で早退し病院へ向かう途中、自宅最寄り駅のエレベーターの中で被災。 エレベーターの中にいたのは私一人だった。 エレベーターの故障と思ったが、地上に出るとバス停の柱が揺れており、交番前だったので、警官が出てきて「地震、屋根が崩壊するかもしれない、逃げてください」と屋根のないところまで誘導してくれた。 その時は大震災とはわからずに、揺れがおさまるのを待って病院に向かった。 病院では緊急時態勢が取られていて、診療階が2階以上にありエレベーターが使えず、当日はすべての診療はストップしていた。 そこで大きな震災があったことを知った。 携帯などは一切使えなかったので「大震災が起こった」という情報しかわからなかった。 夕方に同僚と待ち合わせしていたが、早めに自宅に戻ることにした。 しかし、最寄り駅自体が封鎖されており慣れない迂回ルートを通らなければならず、方向がよくわからなくなり、通行人の方が私がわかる場所まで誘導してくれた。 心配した同僚がマンションの1階で待っていてくれ、また、自宅から徒歩15分程度のところに住むヘルパーも自発的に安否確認に来てくれた。 自室は5階だが、エレベーターは止まっており、電動車いすは重すぎるので1階に置いて、同僚とヘルパーの2名でおんぶして運んでもらった。 同僚はその後3日間、泊まってくれた。 (3)不安だったこと何ですか? Aさん  困ったことは電車が止まり帰れなくなったこと。 不安だったのはすぐに震源地がわからなかったこと。 震源地が故郷に近いと知った時はとても動揺した。 また、もし一人だったら、何が起こっているのか、どういう状況なのか、それがわからないのが不安である。 Bさん  電車が止まり、家に帰れるのだろうか?家族は無事なのだろうか?ということが不安だった。 Cさん  もし、周りに同僚がいなければ、何が起こったのか?どうすればいいのか?とパニックになっていたかもしれなかった。 また、方向音痴なので、初めての場所を一人で歩いて帰るのは自信がない。 もし避難所で過ごすことになった時は、私専用の通訳・介助者を1人つけてもらえたらいいと思う。 Dさん  一人で家にいる時、何回も地震があって不安だった。 ヘルパーは3時間までという規定があるので帰っていった。 また、ヘルパーには子供がいて迎えに行く必要があった。 夫と息子の居場所はわかっていたので安心であった。 でもケガをしていないか心配であった。 Eさん   周りの状況がわからなかったこと。 Fさん  停電が起きた場合、人工呼吸器が止まってしまったらどうしようという不安はあった(のちに東京都から在宅人工呼吸器利用者には外部バッテリーが配布された)。 東京電力に登録しているが、電話のみでしか対応がないため、自宅に一人でいるときには停電などの情報が事前に得られないのは問題だと認識している。 他に、清潔な水の確保(医療機器を洗浄するのに必要)、ヘルパーの確保、医療連携がスムーズにいくかどうかも不安である。 また、本当は避難したいけれども、例え避難勧告がでたとしても現実的には逃げる方法がない。 一番の理由は私を乗せて移動できる手動車いすがないことである。 今使っている電動車いすは、重くて手動で押したり抱えたりすることはできないし停電になるとエレベーターは使えない(東京都では災害を理由に2台交付は認められていない)。 私は現在、体の硬直などが強くでることもあり、震災時より症状が悪化しており、おんぶしてもらって階段を使うことも難しい。 以前に、私の体と担架をバンドで数か所固定し、レスキュー隊3名で抱え、救急隊ら2名が呼吸器などの医療機器を操作しながら救急車に乗ったことがあったが、災害時に即座に優先的にこうした態勢がとれるかは疑問がある。 (4)震災に関する情報はどうやって得ましたか? Aさん  通訳・介助者が、友の会にあったテレビを見て地震の情報を伝えてもらった。 家に帰ると近所に住む娘と孫が来ていて、娘が手話で情報提供してくれた。 故郷の家族が無事であることも教えてもらった。 Bさん  まずは電車内のアナウンスで知った。 避難所へ行く途中の電気店にあったテレビや、避難所にあったラジオからも情報を得た。 一緒に居てくれた通訳・介助者が指点字で何でも伝えてくれた。 自宅に帰ってからはパソコンと点字ディスプレイを使ってインターネットで地震の情報を調べた。 家族に、家族の指点字の練習も兼ねて、新聞を読んでもらったりした。 Cさん  一緒に歩いてくれた同僚が交通機関の情報を伝えてくれた。 また、泊めてもらった家で観たテレビから震源地などの情報を得た。 私はずっと誰かと一緒にいられたのでラッキーだったと思う。 Dさん  パソコンと点字ディスプレイを使い、インターネットのニュースや、いろいろな人にメールをして情報収集をした。 Eさん  地域の手話通訳派遣事務所では詳しい情報は聞けなかった。 通訳者も自分の家のことなどで大変だったと思う。 一週間後にサークルに行って、そこで詳しい地震の情報を知った。 その後は商店街や喫茶店やレストランの人から話を聞いたりした。 3月11日は、ちょうどヘルパーが辞めてしまっていてヘルパーを使っていない時期だったので、近隣のレストランでFAXや郵便物を読んでもらったりもした。 Fさん  同僚とヘルパーから、テレビで流れている情報を筆談と音声で聞いた。 また、自らインターネットでニュースを調べたりした。 ツイッター、メール、ナカマップ(※)も活用した。もしすべて繋がらない場合は、安否確認にくる予定の支援者に状況を聞くことにしている。 ※ナカマップとは、GPS機能を利用して予め登録しているメンバーが何処にいるのか確認できるシステムのこと。現在は名前がLobiに変更した。 (5)自宅で被災した場合、近所に支援をお願いできる人はいますか? Aさん  近所に住む娘家族と、隣の家の人である。 隣の方はとても親切で何かと手伝ってくれる。 Bさん  家族以外はいない。 Cさん  大家さんの家族がいざという時は声をかけてくれると言っている。 近くの食堂で知り合った人も避難所に連れて行ってくれると言ってくれた。 また、頼りになる通訳・介助者が近所にいる。 Dさん  同じマンションに住んでいる人、町内会の人がいる。 日頃より手のひら書きでコミュニケーションをとっている。 Eさん  地元にそういった活動があるようだが、私が住んでいるマンションはオートロックなので誰も入って来られないと思っている。 Fさん  ご近所の人たちは顔なじみの人が多い。 何かあったら声をかけてくれる。 災害時要援護者制度に登録して、すでに4名の支援者と顔合わせが済んでいる。 何かあれば、メールすれば、災害時でなくても同じマンションに住んでいる人が来てくれる。 また、災害時にヘルパーと一緒にいる可能性は高いと思う。 今回の地震では、日頃から交番の警察官、近隣の方と顔なじみであったので、帰宅ルートが変更になってもスムーズに誘導してもらえたのだと思う。 また、呼吸器電源の確保については同僚が東京電力に電話をかけ続けてくれ、近隣の非常用電源の確認にも行ってくれた。 部屋の中でテレビなどが落下したりしていたのも、同僚とヘルパーの2人で元の位置にもどし、割れたものの掃除などしてもらえた。 しかし、一人でいるときに災害が起きた場合、支援者とのコミュニケーションをどうするか、支援者がそもそも私の電動車いすを安全にガイドすることができるのか、一時(いっとき)避難所までは距離があるので、すぐそばの企業のグラウンドに向かった方が賢明ではないか、など解決すべき課題は多い。 (6)通訳・介助中に大地震が起きた時、通訳・介助者に望むことは何ですか? Aさん  通訳・介助者がいれば安心である。一人の時には不安である。一人ではどうにもならない。 Bさん  通訳・介助者も大変だと思うので、出来る範囲で盲ろう者についていてもらいたい。 私は一人で移動することもあるので、通訳・介助者がいない時は自分の身を守ることも大事だと思った。 また、私は家族と同居しているが、家族は通訳ができない。 家族からの情報はどうしても限られてしまう。 なので、通訳・介助者がいてくれるといいなと思う。 Cさん  一人になると不安なので一緒にいて側を離れないでほしい。 周りの様子を伝えてほしいし、あまり沈黙しないで何でもいいから話していてほしい。 電話が通じれば電話通訳もお願いしたい。 震源地や被害の大きい地域の情報も知りたいし、もし避難所に行くことになったらそこの状況も伝えてほしい。 Dさん  外出している時は避難所まで手引きしてほしい。 自分一人ではコミュニケーションが取れないので、通訳・介助者に付き添ってもらいたい。 もし一緒にいて良いと認めてもらえれば、一緒にいたい。 一緒にいてくれるだけでいい。 Eさん  回答なし Fさん  私のそばから絶対に離れないでほしい。 必要があって他の場所へ移動する場合は一緒に移動してほしい。 どういう状況なのか、墨字で構わないのでできるだけ逐一メモを取っておいてほしい。 時間、場所、何が起こった、何をしたかなどである。 あとで他の人に引き継ぐ時に、災害発生時の状況や経過などを説明し、正確に情報を共有する上で役に立つと思う。 そのための準備として、現在は、無記入のスケジュール帳をお薬手帳と一緒に、濡れてもいいようにクリアケースにいれて車いすに常に載せている。 ただのノートよりもスケジュール帳の方が日付などを考えずに書き込んでもらいやすいと思ったから。 (7)震災に備えて友の会や支援センターに望むことは何ですか? Aさん  近所の方は、僕が盲ろう者ということを知っている人もいるし知らない人もいる。 理解してくれる人が増えて、少しでも状況が変わればいいなと思っている。 Bさん  災害が起きた時は盲ろう者の安否確認をしてほしい。 Cさん  私が住んでいる地域の避難訓練に参加するチャンスがない。 地域での防災訓練や避難訓練を体験できたらいいなと思っている。 盲ろう者が、住んでいる地域で一般の人と一緒に避難訓練できるよう、友の会に呼びかけてほしい。 災害時は友の会が全て助けてくれるわけじゃないので、地域が何よりも大事だと思う。 Dさん  以前に地域の手話サークルで避難訓練をやった。 支援センターでも防災訓練や避難訓練をやってほしい。 Eさん  友の会に対しては、連絡手段の確保を望む。 今は自分にとって一番大事なことである。 他に、私は「私は盲ろう者です」と書いたバンダナとホイッスル(笛)を持っている。 一人でどうしようもない時に頼れる道具を用意してほしいということが要望である。 白杖に自分の情報を書いたカードをぶらさげたりするとプライバシーの問題がある。 でも、災害の時に放って置かれるよりかはいい。 嫌な気持ち、知られなくない気持ちもわかるが、私は生きたい。 だから自分からアピールしていかなければならない。 Fさん  無理やり車いすを操作したり、車いすを抱え上げようとしたり、私の体を抱えようとしないこと。 できるだけ早い段階で消防隊、必要であれば救急隊に支援要請を出してほしい。 地震発生時は盲ろうという状況を理解してもらうのが難しいと思うので、ヘルプカードを常に下げている。 病名や家族や友人の連絡先など個人情報はQRコードで載せている。 市販のネームカードに盲ろう者であることを示すバッジをつけて見えない聞こえない状況にいることを平時から理解してもらうようにしている。 車いす利用といっても身体の状況は皆さん違うので、特にニーズが特殊な盲ろう者の場合は、災害時個別対応マニュアルを作成するといいと思う。 災害が起きた時は作ったマニュアルを車いすの押し手にかけるだけでもアピールできると思う。 また、盲ろう者が複数集まるような活動は、できるだけ1階で行ってほしい。 通訳・介助者が、盲ろう者一人に対して一人ずついたとしても、災害時にエレベーターが止まれば階段が使えない人は避難ができない、もしくは遅れるし、階段が使えても普段と状況が変わるだろうから、避難が健常者にくらべて困難であり、全員が安全に避難できないのではないかという不安がある。 他に、災害が起こる前に友の会の近くに赤電源があるか、確認してもらいたい。 (8)震災に備えて、国や区市町村に望むことは何ですか? Bさん  盲ろう者のニーズにあった防災対策の支援をしてほしい。 Cさん  個人情報保護法を緩和させてほしいこと。 盲ろう者がどこにいるか、この法律が壁となって行政から情報が得られない。 友の会と自治体・国が一体となって考える時だと思うので、信頼のある友の会に(盲ろう者の住んでいる地域の情報を)渡してもらって、それで連携が取れると良いと思う。 Fさん  災害時要援護者登録制度で個別避難計画を立てる場合は、災害がおこったと想定して実際に避難シミュレーションを行ってほしい。 「コミュニケーションがとれない」「逃げられない」ということに対して理解が深まり、解決すべき課題がより明確になると思う。 4 まとめ (1) まとめ  聞き取り調査を行いわかったことは、盲ろう者の三大困難「コミュニケーションの困難」「情報入手の困難」「移動の困難」が、震災時はさらに大きな困難となることです。 今回の聞き取り調査で、6人の盲ろう者は特に次の3点において困難を感じていたことがわかりました。 1、周りの状況の把握 2、地震(震度や震源地など)の情報の取得 3、移動(避難) 地震発生時に通訳・介助者やヘルパーの方等、誰かと一緒にいたという盲ろう者が6人中5人でした。 地震直後の周りの状況を、4人の方は一緒にいた支援者から伝えてもらっています。 震源地等の情報は、6人中4人の盲ろう者が地震直後に通訳・介助者や同僚より情報を得たと言っています。 また、1人の盲ろう者はヘルパーと別れてから自宅でパソコンを使って調べたとのことでした。 ちなみに、自宅等で落ち着いてから情報を得る手段としては、6人中3人がパソコンを活用しています。 移動(避難)では、6人中5人の盲ろう者がその場から離れ、自宅や避難場所など別の場所に移動しています。 その5人の内4人は通訳・介助者やヘルパーなど、一緒に移動してくれる人がいました。 注目すべきはEさんです。 地震発生時に自宅に一人でいて、独力で情報を入手することができず、状況がわからない中、地震発生から1時間後、一人で歩き、大変な思いで派遣事務所にいる手話通訳者に会いに行きました。 おおまかな情報は伝えてもらったものの、詳しい情報は一週間後に行われたサークルのメンバーより聞いたとのことでした。 Eさんは一人でいたために、三つの困難が大きな壁となってしまいました。  また、もう一つわかったことは、もし盲ろう者が一人でいた場合、次の場面が特に不安なのではないかということです。 1、地震発生時 2、地震発生直後の避難 3、避難所 地震発生時、4人の盲ろう者が 「もし一人だったらパニックになっていた。」 「一人だったら何が起こっているのかわからなくて不安。」 「一人で家にいたら余震があり不安だった。」 「周りの状況がわからず不安だった。」 「独力で必要な情報が得られない可能性もあった。」と感じています。 もし自宅に一人でいて家の倒壊等で避難しなくてはならない場合、誰かの支援が必要です。 通訳・介助者以外に支援してくれる人として、「近所の人が助けに来てくれると思う」と答えた盲ろう者が3人、「災害時要援護者制度に登録しているし、近所の人も声をかけてくれると思う」と答えた盲ろう者が1人、「家族以外にはいない」「特にいない」と答えた盲ろう者が2人でした。 避難所での行動については、2人の盲ろう者が「避難所で過ごすことになった時は自分専用の通訳・介助者がほしい。」「コミュニケーションが取れないので通訳・介助者に付き添ってほしい。」と答えています。 また、今回避難所で通訳・介助者と過ごしたBさんは「床で寝ている人がいて移動が大変だった。 ずっと通訳・介助者がいてくれた。」と言っていました。 運動障害を重複しているFさんは、第2章で紹介するSOS(ヘルプ)カードの作成、「災害時要援護者制度」の登録等をすでに活用していることがわかります。 他に、必要な避難用品を日頃より準備していることも聞き取り調査の中で話してくれました。 このような、地震発生直後の困難を想定した具体的な地震対策は大変参考になります。 しかし、電動車いすや身体の特徴から「避難が難しい」と感じていて、電源の確保など、設備の面でも課題があることがわかりました。  そして、ほとんどの盲ろう者がどの場面においても「支援者についていてほしい」と感じています。 支援者は高い通訳・介助技術があるに越したことはないでしょうが、それよりも「とにかく側にいてほしい」という意見が強くありました。 (2) 聞き取り調査を受けて  東日本大震災では、東京は最大でも震度5強で建物倒壊などの大きな被害はありませんでしたが、もし震度7前後の地震が起きた時、そして、盲ろう者が1人だった時を想定して、災害対策員会では今何ができるかを考えました。 1、盲ろう者でも出来る地震対策 2、地震が起きた時に周囲の人に助けを求めること 3、安全に避難し、安心して避難所で過ごすこと これらすべては、近隣住民や行政の理解と協力がなければ実現できません。 そこで災害対策委員会では、盲ろう者や盲ろう者に関わっている支援者の震災に対する意識向上を目指し、これらのうちの@「盲ろう者でも出来る地震対策」とA「周囲の人に助けを求めること」に着目し、学習会や交流会の場を活用して勉強会を開くこととし、多くの盲ろう者や通訳・介助者が集まり学習が行われました。 それらの結果をまとめたものが次の第2章です。 これは、日頃の地震への備えや地震時の行動など、地震対策の一部に過ぎませんが、今後、皆さんご自身が地震対策を立てる上での参考としてください。 第2章 日頃からできる地震対策 1 自宅での備え (1)家の中の地震対策  家具が倒れてしまうと、部屋の入口や廊下が塞がれてしまい避難することができません。 また、窓ガラスが割れ、ガラスの破片が散らばって歩けなくなってしまいます。 また、それらでケガをすると、火が出たときの対応や避難もできなくなりとても危険です。 そうならないためにも、まずは自宅の安全対策を考えましょう。 家具転倒防止の器具やガラス片が飛ばないようなフィルムは購入することができます。 事前に、家の中の倒れやすいたんす、本棚、テレビ・パソコンなどは壁などに固定しておくとともに、食器棚や窓ガラスにはフィルムを張っておきましょう。 また、ケガの防止のために、普段から寝室の枕元などにスリッパやスニーカー、厚手の手袋などを準備し、必要であれば懐中電灯も備えておけば、夜中に地震が起きても安全に行動できます。 (2)防災用品の準備  防災用品には2種類あります。 ひとつは非常持出品(ひじょうもちだしひん)、もうひとつは非常備蓄品(ひじょうびちくひん)です。 非常持出品は災害が起きた直後すぐに持ち出せる物、非常備蓄品は救援が来るまで自力で生活できるよう家に備蓄しておく物です。 マンションなど倒壊の危険が少ない場合は備蓄品を充実させると良いでしょう。 家が沿岸部にあったり、木造の建物で火災の延焼危険が大きいなど場合は持出品も充実させておけば安心です。 1、非常持出品  避難する時に持ち出す最小限の必需品です。 あまり欲ばりすぎないことが大切です。 重さの目安は男性で約15Kg、女性で約10Kgまで。 次のリストに書かれたものを背負いやすいリュックサックに入れ、玄関等すぐ持ち出せる所に置いておきましょう。  避難に必要なものは人それぞれ違います。 自分に合った物を準備しましょう。 ********** 【非常持出品リスト】 「避難用グッズ」 品名 備考 非常持出袋 防炎製のリュック ヘルメット又は防災ずきん 防塵マスク 携帯ラジオ 手回し充電式のものは携帯電話の充電ができるので便利 懐中電灯 乾電池 笛 救助を呼ぶ時に便利 「水・食料」 品名 備考 飲料水(500ml) 一人あたり500mlのペットボトル1本 非常食 乾パン、飴など 「救急用品」 品名 備考 絆創膏(ばんそうこう) 消毒液 脱脂綿 包帯 常備薬 常備薬を書いた薬手帳でも可 「生活用品」 品名 備考 衣類(着替え用) 毛布または防寒具 雨具 タオル 下着 生理用品 石けん 歯ブラシ・歯磨き粉 ポケットティッシュ ウェットティッシュ トイレットペーパー ビニール袋 ナイフ ライター・マッチ ろうそく メガネやコントタクトレンズ 筆記用具・はさみ 白杖(予備) 補聴器の電池 「貴重品」 品名 備考 現金 10円玉があると公衆電話から電話ができるので便利 通帳 印鑑 免許証 健康保険証 障害者手帳 ********** 2、非常備蓄品  避難所などに避難した後、少し余裕が出てから自宅へ戻り何度かに分けて運んだり、自宅で避難生活を送るための物です。 二次持出品とも言います。 次のリストにあるものは種類別にまとめて置いておくと良いでしょう。 電気やガスが復旧するには日数がかかり、また、救援物資が届くまでに3日かかると言われていますので、最低3日分は用意しておきましょう。 ********** 【非常備蓄品リスト】 「水・食料品など」 品名 備考 飲料水(1人1日3リットルを目安にする) ミネラルウォーターは長期保存に向かいないものもあるので消費期限をよく確認する 飲料水用のポリタンクや保存袋 給水を受ける時に便利 非常食 レトルト食品、缶詰などを3日分 簡易食器 紙コップ、紙皿、割り箸、キッチン用ラップなど 鍋・やかん 缶切り・栓抜き 「燃料」 品名 備考 簡易コンロ(カセットコンロ) 予備のガスボンベ 固形燃料 「生活用品」 品名 備考 寝袋 敷物(ビニールシート) ドライシャンプー 水が無くてもシャンプーできる。 軍手 ロープ、ひも 使い捨てカイロ 布製ガムテープ 油性マジックを使ってメモになる。 油性マジック 簡易トイレ 簡易組立タイプや家庭のトイレにセットするタイプのもの その他必要と思われるもの 「その他」 品名 備考 スコップ、のこぎり、大バール、ハンマー等 家屋が倒壊した場合や、救助活動をする時に必要 家庭用消火器 生活用水 お風呂のためおき、ペットボトルのためおき等。消火用やトイレの排水用として使える 安全靴またはスニーカー 枕元に置いておくと便利 ********** ※注意点  防災用品は1年に1回は確認し、新しい物と交換しましょう。 女性の場合、または高齢者や赤ちゃんがいる家庭では、生理用品、紙おむつや粉ミルクなども必要です。 ・・・・・・・・・・  2012年8月23日、東京盲ろう者友の会で『防災グッズの紹介』というテーマで学習会を開きました。 非常持出品や非常備蓄品を約20個用意し、参加盲ろう者に実際に見ていただきました。 また、浅草消防署のご協力で、はしご、担架、避難用ロープ、家具転倒防止器具を実際に見せていただき、実際にはしごに登った盲ろう者や、担架に乗って運ばれる経験をした盲ろう者もいて、とても良い経験となりました。 ・・・・・・・・・・ 2 避難のポイントを知る (1)「一時(いっとき)集合場所」と「避難場所」の違い 1、一時(いっとき)集合場所  火災などの危険を回避するため一時的に避難する場所です。 近隣の人達が緊急に集合したり待機したりする場所でもあります。 一時(いっとき)集合場所で災害の状況を見極め、火災などの危険が迫っている場合は避難場所に移動します。 2、避難場所  被害が大きく、人命に著しい危険が及ぶと予測される場合に、身の安全を確保するための場所です。 地震が起き、もし自宅に倒壊や火災の危険があるときは、まず一時(いっとき)集合場所に集合し、状況を見極め、被害が大きい時は避難場所に移動します。 また、「避難所」とは、自宅が焼失したり損壊した場合など、生活の場が失われたときに、一時的な生活の本拠地として宿泊滞在するための施設です。 これらは区市町村で指定されています。 ご自分のお住まいの地域はどこなのか調べておきましょう。 (2)事前の確認など 1、一時(いっとき)集合場所・避難場所の確認  これらはお住まいの地域で指定されています。あらかじめ場所を確認しておきましょう。 2、避難先への道順と危険個所の確認  一時(いっとき)集合場所と避難場所へ行く道順を確認しておきましょう。また、その途中に危険な箇所(大きな看板がある、ブロック塀があるなど)があるかどうかも見ておきましょう。 3、迂回路(他の道順)の確認  2、で確認した道が大きな被害を受け通れない場合、迂回できるよう他の道順も調べておきましょう。 4、近隣との関係づくり  普段から、隣近所など身近な人との交流を深め、いざというときに避難を支援してもらえるような関係をつくっておきましょう。 5、地域の防災訓練への参加  できれば、お住まいの地域で行われている防災訓練に参加して、実際に近隣の人による一時(いっとき)集合場所への避難誘導などの訓練をしてもらいましょう。 (3)避難する時のポイント 1、まず身の安全  大きな揺れを感じたら、まず身の安全を優先します。机の下などに潜り、揺れがおさまるまで様子をみます。もし机がなければ、倒れやすい家具から離れて姿勢を低くし、座布団やかばんなどで頭を守ります。 2、落ち着いて火の元の確認  自宅にいる時は、揺れが収まってから慌てず火の元の確認をします。万が一、出火し、自分で消すことができないときは、無理をせず近くの人に助けを求めましょう。 3、慌てないで行動  倒れた家具や、ガラスの破片に注意します。瓦や窓ガラス、看板などが落ちてくることもあるので外に飛び出すことのないよう、落ち着いて行動します。 4、窓や戸を開け出口の確保  揺れが収まった後に、避難できるよう玄関や出入り口の扉を開けます。 5、安全な場所に落ち着いて避難  自宅で身の危険を感じ、一時(いっとき)集合場所などに避難するときは、次の点に注意します。 ア 非常持出品は、当面の生活に必要な最小限のものにし、両手が自由に使えるようリュックサックに入れて持ち出す。 イ 服装は、できれば頭や身体を保護するために防災ずきん、ヘルメット、長袖シャツ、長ズボンを身に着け、歩きやすくかかとの低い靴を履くなど活動しやすいものとする。 ウ 家の中が、転倒した家具などで避難障害となって、一人で外に出られないときは近所に助けを求める。 エ 自宅を離れるときは、できればすべての窓、扉を閉めて鍵をかけ、電気のブレーカー、ガスの元栓を閉める。 オ 隣近所の人たちの支援を受けながら集団で移動し、リーダー(町会の役員など)の指示に従って整然と行動する。 カ 建物の窓ガラス、看板など頭上の落下物及び足元に十分注意しながら歩行する。 キ ブロック塀や自動販売機が転倒、老朽建物が倒壊している所、または余震により、そのおそれのある所など危険な箇所を避ける。 ク 信号は消えている場合があるので、道路を走る車などに十分に注意する。 ケ 電線が切れて垂れ下がっている所には近寄らない。 コ 移動中に余震が起きた時は、その場で姿勢を低くして頭を保護し身の安全を図る。 サ 万が一、集団からはぐれてしまったような場合は、誰でもよいから近くの人に声をかけ、助けを求める。 シ 一時(いっとき)集合場所に着いたら、あるいはその途上においても、周辺の災害の状況を見極め、被害が大きい場合は避難場所に移動する。 6、正しい情報の収集  災害の状況や周りの様子について、インターネットなどにより正しい情報を集め、又は、近所の人たちに知らせてもらいましょう。 ・・・・・・・・・・  2012年7月26日、東京盲ろう者友の会の学習会で、浅草消防署の全面的な協力のもと、避難訓練を行いました。 東京盲ろう者友の会での学習会の最中に震度6強の地震が発生したことを想定し、友の会職員、参加盲ろう者、通訳・介助者の約50名が一時(いっとき)集合場所へ避難する訓練でした。 身の安全の図り方、建物内から階段を使っての避難、集団で避難する際の注意点などを確認しながら行いました。 最後に浅草消防署よりアドバイスをいただきました。 ・・・・・・・・・・ 3 周囲の人に助けを求める (1)盲ろう者向けSOSカード  災害時のSOSカードは自治体や他の障害者団体でも作成、配布していますが、今回、盲ろう者にとって特に困難なコミュニケーション方法と移動介助方法を細かく記入できるよう、盲ろう者向けのSOSカードを作成しました。 1、盲ろう者向けSOSカードとは?  盲ろう者が1人でいる時、災害にあったら周囲の人(一般の人)に助けを求めなくてはいけません。 しかし、一般の人は盲ろう者のことを知りませんので、移動介助方法や簡単なコミュニケーション方法がわかりません。 そんな時、最低限のお手伝いをしてもらえるよう、このSOSカードを使います。 2、SOSカードの使い方  必要事項を記入し、普段はお財布や障害者手帳等にはさみ持ち歩くようにします。 災害が起きた時、周囲の人にこのSOSカードを見せ、助けを求めます。 3、SOSカードの記入方法  このSOSカードには次のようなことが書いてあります。  1.「SOSカード 目と耳が不自由です。お手伝いをお願いします。」  2.目や耳の障害の程度、コミュニケーション方法  3.手引きの方法  4.東京盲ろう者友の会の緊急連絡先  5.ご自分の名前や生年月日、血液型、住所など  6.かかりつけの病院の名前や連絡先、アレルギーの有無、服用している薬や服用方法など  7.身体障害者手帳の等級、障害の詳細や既往症(病気)など  8.家族などの緊急連絡先、メモ 2.と3.は、ご自分のコミュニケーション方法や手引きの方法を記入します。別紙の例文をご参照ください。 5.〜8.には必要事項を記入してください。 (2)災害時要援護者登録制度 @災害時要援護者とは?  大地震などの災害が起こったとき、高齢者や障害者のうち自力で避難することが困難で、支援を必要とする方々のことです。 「自分では移動できない」、「周囲の状況がわからない」、「身近に支援してくれる人がいない」などで、災害時に避難できないことにより、地域で孤立したり、命の危険にさらされることがあります。 A災害時要援護者登録制度とは?  避難を必要とする災害時に、自力で避難できない災害時要援護者の方々の住所、氏名などの情報をあらかじめ区市町村などの自治体に登録して、その情報を自分の住まいの地域に提供することについて同意することにより、いざというときに地域の方々に安否確認や避難誘導などの必要な支援をしてもらえるための制度です。 各自治体では、登録した災害時要援護者の方々の名簿を作成し、その名簿を地域の支援機関に配布して情報を共有し、災害時においてそれぞれの機関が支援活動のために活用します。 B登録制度の内容  登録制度の内容は、各自治体によって少しずつ違いはありますが、基本的な考え方は共通して作られていて、概ね次のようになっています。 ア 登録対象者  「災害時に自力で避難することが困難な方」で、例えば次のような方を想定しています。  ・身体障害者手帳1級または2級の認定を受けている方  ・65歳以上で一人暮らしの方  ・75歳以上の高齢者のみの世帯の方  ・要介護3以上の認定を受けている方  ・認知症の症状のある方  ・その他災害時の避難等に支援を必要とする方 イ 登録する項目  次の項目を登録すると、自治体がそれらの情報をもとに災害時要援護者名簿を作成します。  ・住所  ・氏名  ・生年月日  ・電話番号  ・ファックス番号  ・同居者の有無  ・自力避難が困難な理由  ・緊急時の連絡先など ウ 名簿の提供先(支援機関)  災害時用援護者名簿は、次の各支援機関に配布されます。 また、更新情報により定期的(6ヶ月、1年ごとなど)に新しい名簿と交換している自治体もあります。  ・警察署  ・消防署  ・消防団  ・住民防災組織(町会、自治会など)  ・民生委員  ・高齢者センターなど ※名簿の提供先については、選択することが可能な自治体と選択できない自治体とがあります。 エ 登録方法  各自治体が用意した「災害時要援護者名簿登録申請書」等の用紙にイに掲げた必要項目を記入し、自治体の防災担当部署や福祉担当部署にファックス、郵送で提出するなどのほか、区民事務所や出張所、福祉事務所の窓口で受付しているところもあります。 ※詳しくは、自分の地域の自治体に確認してください。 オ 個人情報の保護について  支援機関への名簿の提供にあたっては、自治体がそれぞれの支援機関と覚書や協定を締結したり、誓約書を交わしたりして、名簿や登録された個人情報が災害支援の目的以外に使用することを禁止するなど、適正にその取扱いや管理を行うこととされ、守秘義務が守られるようになっています。 4.留意事項  この登録制度は、災害時に必ず必要な支援が受けられることを保障するものではありません。 災害は、いつ、どのような形で起こるか予測できず、全ての場合に万全の体制がとれるとは限りません。 災害時には各支援機関でどのような事情が発生しているかわからず、安否確認などを直ぐに行なうことや支援活動自体ができなくなる場合もあることを、登録にあたっては承知しておく必要があります。 5.その他  先日の新聞記事で、政府はこの災害時要援護者名簿の作成を、法律で義務付ける方針を決めたと報じていました。 その記事によると、これまでは名簿の作成は「災害時要援護者支援ガイドライン」というものに基づいて行われていましたが、義務付けではないため作成済みは6割強にとどまっているとのことです。 また、東日本大震災で障害者団体などが安否確認に乗り出しましたが、名簿を提供したり開示したのは、福島県南相馬市などのごく一部の自治体だけだったそうです。 今後、法律で名簿の作成、さらに、将来的にはそれらの提供や開示がすべての自治体に義務づけられ、災害時に一人でも多くの災害時要援護者が支援を受けられるようになることが期待されます。 ・・・・・・・・・・  2013年3月17日、東京盲ろう者友の会で『災害についての学習会』というテーマで交流会を行いました。 参加盲ろう者にSOSカードの見本を実際に見てもらい意見交換を行いました。 災害時要援護者制度については、ホームページで取り寄せたいくつかの自治体の「災害時要援護者名簿登録申請書」の例を示しながら説明を行いました。 ・・・・・・・・・・ 第3章 盲ろう者の声と今後の課題 1 盲ろう者の声  災害に関する学習会や交流会に参加した盲ろう者の声を紹介します。 ・家の玄関には衣類などを入れたリュックが夫と2人分用意してある。 地域の人からSOSカードをいただいたので、常にバックに入れて持ち歩いている。 災害についての学習会は、本当に勉強になった。 いつでも災害に備えておきたいと思う。 ・家には鉄のヘルメット、水を準備している。 リュックには、敷物(レジャーシート)、軍手、懐中電灯、笛、折り畳み式のコップ、歯磨き、洗顔セット、絆創膏などが入っている。 家には水を溜めるタンク(貯水機)があり、断水してもしばらくの間は大丈夫だと思っている。 ・いろいろな障害者が地域の防災訓練に参加し、障害を理解してもらえるようになれば、緊急時も援助してもらえると思った。 支援センター主催で、もっと広い場所を借り、地域の人々と協力して避難訓練ができたらいい。 ・学習会で避難訓練をし、防災グッズを触ったことで、災害に対する不安が和らいだ。 いつ地震が起こるかわからないし、その状況、環境などもよめない。 家で被災したら、外で被災したらなど、色々な場面をシュミレーションして対処法を考えている。 避難する場所も決めてあり、家族にも伝えてある。 防災グッズは店舗で比較して、さまざまな物をチェックしている。 リュックも用意している。 ・学習会で、災害に対する意識が変わった。 「しっかりしなくては」と思うようになり、真面目に考え、妻と話し合った。 座布団、ライト、コップなどを入れたリュックを枕元に置いて寝ている。 避難場所は考えていないが、妻とは被災したら近所の公園で会う約束をした。 梅酒のビンに水を入れて、保存している。 3月11日の地震の時は誰も助けてはくれなかった。 ・盲ろう者になり、「被災したらどうすればいいのか」と思っていた。 ここへ来て、皆の話を聞いて考えようと思う。 今は何の準備もしていないが、皆の話を聞いてこれから準備をしていきたい。 ・自宅で被災した。 マンションの8階で、震度6程度の揺れだった。 13階に住む女性と一緒に避難した。 本当に怖くて、涙が出そうだった。 現在はリュックなどの用意をしている。 ・3月11日は、家の隣の人と避難をした。 外へ出て、揺れが収まるまで10分程待機し、その後家へ戻った。 ・自宅で被災した場合は、大丈夫だと思っている。 自宅では、特にリュックや水などの準備はしていない。 被災した時に、一番大切な物は飲食物だと思っている。 食べ物は手に入りにくくなるものだから、少しずつ準備している。 ・30年前アメリカが原発事故で停電し、食料に困った時期があったそうだ。 電気冷蔵庫は使えなくなり、食べ物は腐ってしまう。 そんな時は、発砲スチロールで簡易冷蔵庫を作ると良い。 保冷剤などを食べ物と一緒に中に入れることができる。 きっと役に立つと思う。最大で3日間は保存ができる。 ・停電が起こるとクーラーも扇風機も使えなくなる。 暑さが辛い時は、冷却シートや水枕などを使うと良いと思う。 ・SOSカードではなくて腕章にしてもらいたい。 ・SOSカードの見本を見た。 いつでもカバンに忍ばせておき必要な時に出せばいい。 腕章という意見もあったが、腕章は難しいと思う。 カードであれば、入れっぱなしで持ち運びにも便利。 ・SOSカードはぜひ皆におすすめしたい。 日本盲人会連合という団体では、「黄色のウインドブレーカーは障害者の証」としている。 そこにカードを入れておくといいと思う。 ベスト型は、夏にも冬にも着られるから特にお勧め。 また、「3月11日は助けてもらえなかった」と言っていた人がいたが、白杖を持っていなかったために障害者と気付かれなかったのでは? ・地震が起きた時、近隣や近所の通訳・介助者に連絡の取れるネットワークができていると安心できて良いと思う。 2 今後の課題  冒頭にも書きましたが、災害時には盲ろう者の困難はさらに増し、被害が大きければ大きい程、派遣事業などの日頃の支援体制は役に立たなくなってしまいます。 そのため、(1)災害時の制度の充実、(2)近隣住民の理解、(3)盲ろう者と通訳・介助者の意識向上が重要になってきます。 (1)の「災害時の制度の充実」は、制度上の課題として、災害時における盲ろう者への通訳・介助などの支援体制のあり方を具体化し、行政へ要望していかなければなりません。 (2)の「近隣住民の理解」では、コミュニケーションの困難がある盲ろう者にとって、解決しにくい課題です。 1人でいる時に被災し、避難が必要になったり、避難した後も避難所での生活が長期化すると、「遠くの通訳・介助者より近所の人」を頼らなくてはならないかもしれません。 聞き取り調査では、「地域の避難訓練に参加できると良い。」「災害時は地域が何より大事。」という意見や、「災害時要援護者制度では登録するだけではなく、具体的な避難シュミレーションを行ってほしい。」という意見もありました。 さらに、前ページの盲ろう者の声では「近隣や近所の通訳・介助者に連絡の取れるネットワークができていると安心できて良いと思う。」という意見が聞かれました。 地域の支援を受けるためには、地域住民に盲ろう者への理解を広める啓発活動も大切になってきます。 (3)の「盲ろう者と通訳・介助者の意識向上」については、今回、災害対策委員会が主体となって行った学習会や交流会を通して概ね目標を達することができたのではないかと思います。 しかし、学習会などは、一度だけではなく何度も繰り返し行って、今後もより多くの盲ろう者に、より広い知識を身に付けてもらうことが望まれます。 盲ろう者のための災害対策は、今はまだ検討が始まったばかりです。 この災害対策委員会が1年半かけて検討した結果、やっと震災時に、盲ろう者にはどのような困難があり、どのようなニーズがあるのかが明らかになったという段階です。 これらの課題を解決するには、これから検討しなければならないことがたくさんあり、目的地までは本当に遠い道のりです。 このたびの東日本大震災を教訓とし、今後、起こり得る災害による被害をより少なくするために、東京盲ろう者友の会が、そして盲ろう者、通訳・介助者一人ひとりが、今後も継続して地震対策に取り組んで行くことを期待するものです。 おわりに  東京盲ろう者友の会 災害対策委員会は2011年10月に発足し、2013年3月まで活動を行いました。 災害対策委員会では多くの課題に直面し、盲ろう者のための災害対策の困難さを改めて感じました。 災害対策委員会のこれまでの活動では、各委員がお互いに友の会の仲間として地震対策について学ぶことだけで多くの時間が費やされ、当初の目標の一部しか達成出来ませんでしたが、それだけでもこれを一つの成果として、盲ろう者と盲ろう者に関わる多くの人達の、盲ろう者のための災害対策を考えるきっかけとなれば嬉しく思います。 最後に、聞き取り調査にご協力いただいた6名の盲ろう者の方々に心より感謝申し上げます。 災害対策委員会 委員長 藤鹿 一之(盲ろう者) 委員 石井弘恵(通訳・介助者) 委員 奥田理恵子(盲ろう者) 委員 中西正浩(通訳・介助者) 委員 鈴木絹子(盲ろう者) 委員 森下摩利(通訳・介助者) 編集・発行:認定NPO法人東京盲ろう者友の会 連絡先:東京盲ろう者友の会 〒111−0053 東京都台東区浅草橋1−32−6 コスモス浅草橋酒井ビル2階 TEL:03−3864−7003/FAX:03−3864−7004 E−mail:tokyo-db@tokyo-db.or.jp URL:http://www.tokyo-db.or.jp/ 発行年月日:2014年3月31日