弁護士コラム

東京盲ろう者友の会の会報誌「てのひら通信」では、盲ろう者向けの法律に関するコラムを隔月連載しています。
ここではバックナンバーをご紹介いたします。最新のコラムは、会報誌をご覧いただければ幸いです。

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バックナンバー

2023年 6月号 インフォームド・コンセントについて

 インフォームド・コンセント、医療同意という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。一昔前は、患者は医師にすべてを任せて、診断内容くらいしか聞かない、重い病気の場合には、診断内容すら説明を受けないということもありました。今では十分かつ正しい説明を受けた上で(informed)、選択し、同意し(consent)、あるいは拒否することは、患者が、医療行為を自分自身で決定する上で、大切なプロセスとなっています。医療において、患者の主体的な意思が尊重される権利は基本的人権に由来しています。
もっとも、実情としては、合併症やその合併症が起きるパーセンテージとか、難しい 言葉が並んだ説明書にサインを迫られ、それでおしまい、ということもあるかもしれません。短い診療時間の中で、忙しい医師に、自分の疑問をぶつけられない、ということもあるでしょう。医療機関側も、短い診療時間の中で実践が難しい、患者が聞きたがらないし、説明してもなかなか理解してもらえない、という考えもあるかもしれません。
それでも、ご自身の大切な体のことですから、疑問に思ったら、遠慮せずに率直に説明を求めてみましょう。緊急の場合で時間がないときは、難しいかもしれませんが、時間に余裕があれば、医師の説明をメモにとり、少し時間をもらって、周囲の方と相談したり、ご自身で調べてみることも考えられます。投薬治療などの場合には、製薬会社等が説明のためのパンフレットを作っていることもありますので、そういうものを利用して理解を深めることもできます。
セカンドオピニオンといって、別の医療機関、医師に意見を求めることもあります。他の医師の意見を聞きたいと言えば、担当の医師が気を悪くするんじゃないかと遠慮する必要はありません。最近では、セカンドオピニオンのために紹介状を書いて下さいと頼めば、快く引き受けてくれる医師もたくさんいます。
医療技術は日々進歩し、高度化しています。患者が、自身の病状を知って、医療に主体的に参加することで、医師と患者の信頼関係がより深まり、より良い治療効果が得られることもあります。
重い病気の場合、それを受け止めること自体が辛いこともあるかもしれません。医師や看護師、ソーシャルワーカーの方々に、あるいは、家族や周囲の方に支えてもらいながら、よりよい選択肢を模索することは、たとえ治療の選択肢が限られている場合でも、大切なことです。
新型コロナウイルスによるパンデミック禍においても、ワクチン接種、感染予防対策、感染した場合の治療等、その選択肢に悩まれた方もいらっしゃると思います。何が正しい情報かを判断すること自体が難しい状況でもありました。「正解」がなく、相談体制などもより必要な一方で、密を避けなければいけないというジレンマもありました。
今年5月で、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが変わりましたので、日常を取り戻しつつ、医療との向き合い方を改めて考えてみてはいかがでしょうか。

2023年 4月号 相続と認知症ついて

 厚生労働省の調査によれば、団塊の世代が全て75歳となるのが2025年であり、2025年には、75歳以上が日本の全人口の18%となる見込みだそうです。また、現時点での65歳以上の人口割合は、全人口の約30%で、世界で比較すると日本は第1位だそうです。このように、世界でもトップレベルの高齢化社会の日本において、相続と認知症はもはや誰にとっても身近な話となっているのではないでしょうか。そこで、今回は、相続と認知症についてお伝えいたします。
亡くなった方が認知症であった場合や、相続人の方が認知症であった場合、相続手続でトラブルになることがよくあります。たとえば、①亡くなった方が遺言書を作成していた場合に、通常は、遺言書通りに財産を分けることとなりますが、認知症となった後に 作成された遺言書であれば、遺言するのに必要な判断能力(民法第963条)が低下した状態で作成されたため、遺言内容に不満のある相続人から、「この遺言書は、認知症になってから作成されたものであり、亡くなった方の意思が反映されていないから無効だ!」と争われてしまうことがあります。また、②複数の相続人で遺産の分け方を話し合う場合(「遺産分割協議」といいます。)、相続人の中に認知症の方がいらっしゃると、そのままでは話し合いを進められなくなる可能性があります。遺産分割協議は、相続人全員の合意があって成立するものですが、認知症により判断能力がない相続人の合意は無効となってしまうからです。
では、この場合には、どのような対策を行えばよいでしょうか。
まず、上記①のようなケースでは、認知症の症状が表れる前に遺言書を作成するのがよいでしょう。そして、遺言書を作成する時点で医師に「認知症の疑いはない」旨の診断書を作成してもらい、診断書も一緒に保管しておけばさらに安心です。なお、遺言は、公証人が本人の意向を確認して作成する「公正証書遺言」というものを活用すれば、自筆で作成する遺言書と比べて無効とされるおそれも少ないでしょう。
次に、上記②のようなケースでは、認知症の方をサポートしてもらうために、「成年後見人制度」を利用することが考えられます。もっとも、成年後見人の選任は、裁判所が行う手続のため、時間がかかります。そのため、成年後見人の選任を待ってから協議を進めると、場合によっては協議が成立するまでに、相続税の申告期間を超えてしまうなど支障があるかもしれません。そこで、事前の対策として、遺言書を作成することをおすすめします。遺言書があれば、基本的に遺言書の通りに財産を分けることとなるため、 遺産分割協議自体が不要となるからです。さらに、遺言書の中で、遺言の内容を実行する人(「遺言執行者」といいます。)として、弁護士などの専門家を指定しておけば、遺言執行者が確実に手続を行ってくれるので、より安心です。
もっとも、財産関係や家族関係は人それぞれ異なるため、どのような相続対策が最善かも、人それぞれ異なります。相続と認知症のことなどで、将来に不安や心配なこと、お困りごとがある場合には、是非一度、弁護士に相談されることをおすすめします。

2023年 2月号 障害者の権利に関する条約

 日々、指文字、手話(触手話)、手書き文字、点字などを活用している方も多いのではないでしょうか。私は、昨年、「認定NPO法人東京盲ろう者友の会」さんにて、視覚と聴覚のない状態で歩く体験をし、盲ろうの方が利用されている器具も見せてもらいました。通訳・介助者を利用される方は通訳・介助者との相性も重要なことや、ご自身に合った器具を利用としても、時には多額の費用が自己負担となることも聞きました。障害がある方でも、ご自身に合った方法で意思疎通できることは不可欠だと感じます。
話は変わりますが、「障害者の権利に関する条約」をご存じでしょうか。この条約では、障害のある人も、障害のない人と平等に権利があることが確認されています。コミュニケーションとの関係では、障害のある人が、自ら選択する意思疎通の方法により、障害のない人との平等に、情報を受けとり、伝える権利があるとされています。このような権利を確保するために、政府は、障害のある人が自ら選択する利用しやすい意思疎通の方法を用いることができるようにする責任があることも明記されています。
日本の政府は、このような条約上の政府の責任を果たしているかについて、国連の「障害者の権利に関する委員会」による審査を受けており、昨年9月、同委員会より、審査結果が発表されました。同委員会は、日本では盲ろうの方などへの意思疎通の支援が不足していると指摘し、政府に対して、盲ろう通訳などの普及のために充分な予算を配分すべきとの意見を出しました。
現状で意思疎通に苦労していたり、金銭的な負担が大きい場合、このような条約や審査結果も踏まえ、ご自身の希望を、支援者や仲間と一緒に、政府や多くの人に届けていくことが第一歩なのではないかと思います。

2022年12月号 消費者相談のススメ

 私たちの生活の中では、物を買ったり売ったりすることで成り立っている部分があります。これを消費生活ということがあります。消費生活を取り巻く環境は、流通手段の多様性や技術の高度化によって複雑になり、多くの物が流通するようになりました。私たちは日々の生活で多くの物や情報等を入手しています。それは物や情報を欲する私たちの欲求からはじまっています。私たちの「物や情報を入手したい」という欲求につけ込んで、偽物を売りつけたり、市場価格より高額で売りつけたり、あるいは非常に低額で買い取ったりする業者が出てきます。消費者被害というのは、人の欲求につけ込む悪徳業者により発生しています。
例えば、ある日営業マンが自宅を訪問して、「飲むだけで健康になる健康食品がある」という営業トークにより大量の食品やサプリメントを購入させられた、という事案があります。本当に健康にいいのか、といったことを十分に調べずに、言われるがままに購入してしまい、気がつけば家に山積みになっている、といった事案もあります。また、特設会場で洋服が安く買えるといった誘い文句で店舗に連れて行かれて高額な商品、大量の商品を買わされたりする場合もあります。最近では、訪問販売(押し売り)だけでなく、自宅にある高額な指輪などを低額で買い取るという「押し買い」という消費者被害もあります。悪徳業者は、被害者のことを全く考えていないので、被害はとても大きく、これまでの生活が維持できなくなる場合もあります。そうなってから被害を訴えても、悪徳業者は逃げてしまうので、被害を回復することは現実的に難しいです。
そうなる前に、私たちにまわりにいる人に相談するのが1番の防止策となります。身近に相談できる人がいなければ、近くの消費生活センターに相談しましょう。消費生活センターは、消費者安全法により都道府県に設置が義務付けられている消費生活に関する専門相談窓口です。先に紹介した訪問販売などでは「クーリング・オフ」という法律上の制度があって、結んでしまった契約を解消することができたりします。そういった対処方法や情報提供を消費生活センターの相談員が提供してくれるので、遠慮せずに相談しましょう。もし被害に遭ってしまっても早急に相談すれば被害が回復する場合もあります。諦めずに相談することが重要です。そして、弁護士に相談することもお勧めします。第二東京弁護士会では皆様の支援活動を行っていますので、お気軽にご相談ください。

2022年10月号 死後事務と遺言

 一昨年、60代半ばのMさんという男性から死後事務と遺言の依頼を受けました。遺言については、比較的なじみがあるかも知れませんが、死後事務とは、自分が亡くなった後の葬儀・埋葬手続、遺品整理などの遺言では依頼することのできない事務手続のことをいいます。
Mさんは、警備員として現役で働いていた方だったのですが、前触れなく、癌を発症してしまい、余命数ヵ月という状況でした。入院先の病院からの依頼を受け、病室でMさんと面会をしました。Mさんには、近くに身寄りがなく、誰かに頼んで、家にある貴重品を運び出したり、諸々の手続ができる状態ではありませんでした。そこで、病院で面会後、すぐに見守りや財産を管理する契約を結んで、救急車で運ばれたままの状態となっていた自宅を往訪し、通帳等の貴重品や大事にしていた母の写真等を回収しました。Mさんの母親の写真を持参したところ、とても喜んでくれました。突然の余命宣告で、最初は、Mさんも死後事務や遺言のことまでは考えられなかったのですが、何度か面会を重ねるうちに、自分の亡くなった後のことをきちんと整理しておきたいという意思が固まり、遺言の作成と死後事務も受任することになりました。体調が悪化していましたが、なんとか意識がしっかりしている内に、転院後の病院内で遺言を作成することができました。
その後、都内の警察署で夜の11時過ぎに接見をしていた際に、私の携帯電話が鳴りました。接見を終えて、着信があった病院に連絡をしたところ、Mさんが亡くなったことを伝えられました。その後、病院に行き、Mさんのご遺体と対面をしました。Mさんは近くに身寄りがいらっしゃらなかったので、火葬についても、死後事務として、私がとり行いました。
Mさんは、地元の福岡県のお寺に納骨することを希望されていました。また、事前に、福岡県にお住いのMさんの叔父とは連絡が取れていたことから、Mさんのご遺骨を叔父にお引き渡しするとともに、Mさんの財産をご意向通りにお渡しすることができました。Mさんはとても穏やかで性格の良い方で、お若くして亡くなったのはとても残念でした。ただ、Mさんのご意思通り、遺言の内容を実現することができ、死後事務として家の片付け等もすることができた点は救いでした。遠方に住まわれているMさんの叔父にも大いに感謝いただきました。
高齢化社会が進むにつれて、弁護士の役割も、遺言の実現だけではなく、死後事務も含めて、しっかりと依頼者の亡くなった後のことを担っていくべきであると実感した依頼でした。

2022年 8月号 安心して老後を迎えるために

 70代のAさんという女性から、ご相談がありました。「私は結婚しておらず子供もいません。両親は亡くなり、両親から受け継いだ自宅と預貯金があります。兄弟も既に亡くなり、身内は甥と姪だけです。私は今のところ健康で理解力もあります。しかし、将来、病気や怪我で入院する場合や、認知症等になって、自分では生活やサービス、お金の管理の理解が難しくなったときに、誰に任せればよいのか、とても心配です。甥・姪とは疎遠ですし、福祉サービスの担当者に全てを頼れないのではないかと心配です。また、私は死後に両親のお墓に入りたいのと、遺産を障がい者を支援する団体に残したいのですが、誰が私の願いを叶えてくれるのか不安です。どのような準備をすれば良いでしょうか」。
弁護士からは、「任意後見契約」の制度の利用を提案しました。この制度は、ものごとに対して十分な判断ができるうちに、将来、判断が出来にくい状態となった場合に備えて、あらかじめ自分が「任意後見人」になってほしい人との間で、生活や、介護サービスの利用や入院の手続、財産の管理などの依頼したい事柄について、代理権を与える契約(「任意後見契約」といいます。)を結ぶものです。
この制度は、みなさんのご家族、ご友人、専門職等、誰とでも契約をすることができますが、ものごとの判断をする能力が低下した時期に自分の生活や財産を委ねるものですから、本当に信頼できる人にお願いをすることが大切です。
また、この制度は、必ずみなさんの権利や財産を守る公証人が作成する「公正証書」というものを利用して契約を結ぶ必要がありますので、その手続について弁護士にご相談されると安心です。
さらに、公証人には、葬儀や納骨等の依頼についての契約や、財産を誰に引き継ぐかの「公正証書遺言」についてお願いするケースもあります。
Aさんは、信頼できる知人や親族がいないそうなので、弁護士との間で「任意後見契約」を結び、公正証書を利用して、障がい者の支援団体に財産を残し、その内容を弁護士が実現する方法を助言することで、Aさんのご希望をサポートしました。
Aさんのように「老い支度」について不安がある方は、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

2022年 6月号 意思決定支援をご存じですか?

 意思決定支援という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。
我々の日常生活において、自分のことは自分で決めるということを基本的な考え方として、当たり前に実践しています。このことを自己決定権といい、日本国憲法13条でも保障されている権利です。
しかし、障害のある方にとっては、この考え方のとおりにはさほど簡単にはいかないということが多いかもしれません。たとえば、障害のある方によかれと思ってなされるお節介、通常であればこうだからこうしますねという押し付け。盲ろう者の方はご自身の考えが十分に他人に伝わらないという思いをされたことも多いでしょう。
それでも、障害があることは、自分で決定したいという思いがあること、また自分で判断ができるということを、いささかも否定するものではありません。
障害のある方も障害のない方も等しく、自分のことは自分で決めるという思いを持っているという出発点を確認し、皆さんの決定=意思決定を支援していこうという考えが「意思決定支援」といわれる考えです。
日本も批准している障害者の権利に関する条約12条では、我が国が、障害者が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を共有することを認め、また障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用する機会を提供するための適当な措置をとるとの定めがあります。
これを受けて、障害者基本法23条は、国や地方公共団体が障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者に対する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための制度が適切に行われ、広く利用されるようにしなければならないと定めています。
意思決定支援は、「支援付き意思決定」と「代理代行決定」に分かれます。「支援付き意思決定」とは本人が支援を受けながら意思決定を行うことです。「代理代行決定」とは本人が意思決定を行うことが難しい場合に、本人に代わって支援者や周囲の人が決定することです。意思決定支援の考えのもとでは、「代理代行決定」は最終手段であり、「支援付き意思決定」の方法を尽くしてなお本人の意思決定ができない場合に取られる手段とされます。現在では、福祉や医療、成年後見制度など様々な分野に意思決定支援の考え方が取り入れられています。
皆さんも「自分のことは自分で決める」という自己決定権をおおいに活用して人生を自分らしく楽しみましょう。

2022年 4月号 遺言のはなし

 被相続人が亡くなると、相続が開始します。たとえ仲の良い家族でも、相続をきっかけに争いが起こることも珍しくありません。このような相続に関する争いを未然に防ぐ手段として、遺言を遺すことも有効な手段のひとつです。今月のコラムでは遺言書についてお伝えします。
遺言には、いくつか種類がありますが、皆さんに一番馴染みがあるのは、自分で遺言書を作成する自筆証書遺言かと思います。自筆証書遺言は、費用もかからず、自分1人で手軽に書けて、何度でも書き直せるなどのメリットがあります。また、令和2年7月10日より、自筆証書遺言保管制度により法務局で遺言書を保管してもらえるようになり、自筆証書遺言の自己管理による紛失、破棄隠匿等の危険も回避できるようになりました。もっとも、有効な遺言書とするためには全文の自書、日付、氏名の記載、押印をしなければなりませんが、これらは代筆が一切許されず、必ず本人自身が書かなければなりません。点字で書かれたものも無効となってしまうことに注意が必要です。
また、自分で遺言書を書くことが難しい場合でも、公証役場というところで、公正証書遺言などを作成することができます。公正証書遺言は、ご本人が遺言の内容を公証人や証人の前で口頭で伝え、その内容をご本人に確認してもらうことにより作成されます。公証役場では、遺言書に自分で署名することができない方には、署名をサポートする  制度や、会話や聞き取りに不安がある方などには、通訳人(手話通訳者など)による  サポートなど、様々な支援を受けることができます。
なお、遺言者の作成には、ご本人に遺言の内容を理解する能力が必要とされています。そのため、後々、遺言書が無効と取り扱われないようにするために、認知症の傾向などが見られる方は、遺言書の作成と同時に、そうした能力を証明するため、医師の診断書をもらっておくのも一つの方法です。
以上、遺言書についていくつかポイントをお伝えしましたが、遺言者の財産状況や家族関係等については、個々様々であり、将来の相続で争いが生じないようにするために 何が最適かはケースバイケースです。遺言書を作成してみようと考えた時には、是非弁護士等の専門家にご相談することをおすすめします。

2022年 2月号 身に覚えのない連絡やうまい話には気をつけましょう

 今月のコラムでは、消費者トラブルについてお伝えします。「ハガキ、メール、電話などで、よく分からない内容の連絡が来た」「インターネットやSNSで一見お得な情報を見かけたけどなんか怪しいぞ・・・」というトラブルが多くなっています。最近増えている事例をご紹介します。

(1)身に覚えのない請求
利用した覚えのあるものについての請求であれば良いのですが、何のことだか分からない、まったく知らない内容の請求や連絡が来ることがあるようです。こういった請求は、架空請求である可能性があります。多くの場合、連絡先が書いてあるので、「念のため内容を確認してみよう」というつもりで連絡したくなるかもしれませんが、ちょっと待ってください。ひとたび連絡をしてしまうと、個人情報を収集されたり、かえってトラブルに巻き込まれかねません。こういった連絡に対しては、慌てて対応するのではなく、まずは誰かに相談してください。

(2)もうけ話へのお誘い
「この商品(取引ツールや虎の巻など)を買って、教えたとおりに取引をすればもうかるよ」という誘いが来ることがあります。しかし、言われたとおりにやってみても、説明通りにもうからずに結局代金分損をしたり、あるいは、知らないうちに違反行為をしてしまう可能性があります。うまいもうけ話などというものは、なかなかありません。安易に応じないようにしましょう。

(3)インターネットなどの怪しげな広告
SNSなどで、「百貨店や免税店の閉店セール!80%引き!」といったお知らせを見かけてクリックすると偽通販サイトに誘導されることがあります。一見お得な広告にだまされて偽物を買わされるという被害につながるようです。やはりうまい話には裏がありますね。

最近見かけることが増えた事案をいくつか挙げてみました。ちょっと変だなと思う時には、自分だけで考えこまずに、まわりの人や警察、弁護士、お近くの消費生活センターなどに相談してみてくださいね。

2021年12月号 成年後見制度のお話

 今月のコラムでは、成年後見制度について簡単にお伝えします。以下では、成年後見制度の対象者(支援を受ける方)のことを「本人」といいます。

(1)認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でない方(「本人」)は、自分の財産を管理したり、福祉サービスを受けるための契約を結んだりすることが難しい場合があります。そのような方(本人)の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度が成年後見制度です。

(2)成年後見制度の種類として、判断能力が不十分になる前に、将来の判断能力の低下に備えて、「誰に」「どのような支援をしてもらうか」をあらかじめ契約により決めて おく「任意後見制度」と、すでに判断能力が不十分になってから、家庭裁判所によって援助者として成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が選ばれる「法定後見制度」があります。法定後見制度の場合には、本人の判断能力によって、後見・保佐・補助の3つの制度が用意されています。

(3)後見は、判断能力が全くない方(買い物などの日常生活や財産管理が一人ではできない)が対象です。保佐は、判断能力が著しく不十分な方(日常の買い物程度はできるが、重要な財産管理などはできない)が対象です。補助は、判断能力が不十分な方(基本的には財産の管理は自分でできるが重要な財産管理などを一人でするのが不安な方)が対象です。

(4)成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所(本人の住所地を管轄する家庭裁判所)への申立てが必要となります。申立てをすることができる方は、本人、配偶者、四親等内の親族(親、祖父母、子、孫、ひ孫、兄弟姉妹、甥、姪、おじ、おば、いとこ、配偶者の親・子・兄弟姉妹など)、市区町村長などに限られています。

(5)申立てには、申立書や医師の診断書など必要な書類を用意しますが複雑な場合もあります。すべてご自身で行うことが難しい場合は、手続きを専門職に委ねることができますので、困ったときはご相談ください。

2021年10月号 相続手続のお話

 今月のコラムでは、相続を受けるときの手続きについて簡単にお伝えします。 以下では、相続を受ける人のことを「相続人」、亡くなった方のことを「被相続人」といいます。

(1)最初に、被相続人の遺言書があるかを調べましょう。遺言書がある場合、遺言書の 内容を遺言執行者という人が執行することで相続手続を行います。

(2)遺言書がない場合、相続人が相続手続を行います。まず、被相続人の除籍謄本や 除票を取り寄せます。除籍謄本は本籍地の役所、除票は住所地の役所が発行します。相続人を調べるため被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本(又は戸籍全部事項証明書)、相続人の戸籍謄(抄)本も取り寄せます。

(3)つぎに、被相続人の口座がある金融機関に、被相続人が亡くなったことを届け出て、被相続人が亡くなった時点の預貯金等の残高を調べます。被相続人の口座が凍結され、相続手続きを行わなければ預貯金等を引き出すことができなくなりますが、医療費や葬儀費などの支払いが必要な場合、一部を引き出すことができる制度がありますので、口座のある金融機関に尋ねてください。

(4)相続人が複数いる場合は、相続人同士で遺産の分け方を話し合い遺産分割協議書という書類を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員が署名して実印を押印し印鑑登録証明書を添付します。実印の印影と印鑑登録証明書があることで、遺産分割協議書の内容に相続人が同意していると判断されますので、実印と印鑑登録証明書は非常に重要です。実印や、印鑑登録証明書の発行に必要なマイナンバーカード、印鑑登録カードの管理はくれぐれもご注意いただき、他の人に無断で使われないようにしてください。

(5)そのほか、被相続人が不動産を所有している場合は相続登記手続も必要です。相続に関する手続きは、遺言執行者や相続人がご自身で行うこともできますが、用意する書類が様々で手続が複雑な場合もあります。すべてご自身で行うことが難しい場合は、各手続きを専門職に委ねることができます。相続税の申告・納税手続は税理士、不動産の相続登記手続は司法書士(又は弁護士)、遺言書の作成は弁護士(又は司法書士)、相続人間の遺産分割協議は弁護士に相談できますので、困ったときはご相談ください。

2021年 8月号 障害者差別解消法が変わります!

 みなさんは、電車に乗るとき駅員さんに手引きをお願いしたのに断られたり、レストランで筆談をお願いしたのに無視されたりしたことはありますか。
手引きや筆談など、障害のある人の困りごとに合わせて工夫をすることを「合理的配慮」といいます。盲ろうの方にとって、このような「合理的配慮」は生活する上で欠かせないものだと思います。
「合理的配慮」という言葉は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(「差別解消法」といいます)に書かれています。差別解消法は2013年にできました。
差別解消法によると、国の機関や地方自治体(例えば、税務署、市役所、警察署、公立病院、公立学校など)は、障害のある人のために、困りごとに合わせた「合理的配慮」をしなければならないことになっています。そのため、国の機関や地方自治体が「合理的配慮」をしないことはルール違反になります。
これに対して、民間の事業者(鉄道会社、民間病院・クリニック、レストラン、美容院、民間の事業所など)は、できるだけ「合理的配慮」をするよう努力すればよく、「合理的配慮」をしなくてもルール違反にはならない、というのが、これまでの差別解消法でした。
ところが、今年5月、差別解消法を変えることが国会で決まり、民間の事業者も「合理的配慮」をしなければならないということになりました。法律を変えることが決まっても、実際に新しい法律が動き出すまでは時間がかかります。新しい差別解消法のルールが動き出すのは3年後になるかもしれないとも言われています。
それでも、民間の事業者が「合理的配慮」をしなければならないというルールが動き出せば、みなさんにとって、もっと生活しやすくなると思います。
新しい差別解消法のルールが動き出さなくても、民間の事業者に対して「合理的配慮」をするよう求めることはできます。弁護士がみなさんの代理人として交渉などをすることもできますので、困ったことがあれば、弁護士に相談してみてください。

2021年 6月号 意思決定支援について

 皆さん、ご自身の生活に関して、どのような場所で生活するか、どのような福祉サービスを受けるか、どんな物を食べるか、といった事柄について自分の思い通りになっているでしょうか。何か自分抜きに決められているという思いになっていませんか。
人にはみな思いや気持ちがあり、たとえ障がいを有していても、自分の生活に関することは本来自分で決めることができるはずです。本人の自己決定を尊重すべきという理念は、障がい者権利条約などで定められています。意思決定支援とは、本人の自己決定を尊重し、本人が意思決定できるよう配慮して本人の意思が反映された生活ができるように支援を行うことを言います。
「Nothing About Us Without Us」(私たちのことを私たち抜きに決めないで)というフレーズの通り、意思決定支援は、たとえ本人の意思決定が困難な状況であっても本人の意思確認を抜きにするのではなく、できる限り本人の意思決定を支援します。
意思決定支援でまず重要なことは、わかりやすい情報提供です。判断のために必要な情報にアクセスできるようにする、本人が判断可能になるようにわかりやすい説明を行う、本人が自由に意思を表明できるよう配慮するといった対応が求められています。
また、意思決定支援においては、たとえ本人の意思決定が不合理であっても、他人の権利を侵害しない限り本人の意思決定を尊重します。支援者らによる代行決定は、本人の意思決定がどうしても難しい場合の最後の手段であるとされています。
意思決定支援に関しては、現在、局面に応じて、様々なガイドラインが設けられています。最近では、成年後見人が本人の身上監護や財産管理を行うにあたってのガイドラインも設けられています。このガイドラインには、本人の思いや意思が反映されやすい支援チームを作ること、本人参加のミーティングを行うことなどが記されています。
皆さんの中で、もし自分の思いはどうせ通らないからと諦めている方がいたら、どうか意思決定支援を要望してください。そして、自らの意思決定によって、自分らしい生活を過ごしていただければと思います。

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毎年10月頃に第二東京弁護士会「ゆとり~な」と共催で無料法律相談会を開催しています。

弁護士さんを講師としてお招きし、学習会でお話をしていただくこともあります(例年7月~9月頃)。

生活技術向上学習会

盲ろう者とそのご家族の方で、何かお悩みのことがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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